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サンショウウオ探訪

 

47種もの固有種が生息するサンショウウオ王国日本。オオサンショウウオはそのヌシ?

生き物たちにとっては繁殖の季節。カエルやヘビなど、変温動物にとってもいよいよ本格的な活動時期に入ります。ところが、両生類でありながら冷たい環境を好み、冬眠もしない不思議な生き物・サンショウウオが日本列島には生息しています。日本列島は世界でも特例的なサンショウウオの楽園なのです。
 
 
 
 

 
 
 
 

そもそもサンショウウオって何?どこで見られるの?

 

 

関東から福島にかけて生息する止水系のトウキョウサンショウウオ

サンショウウオ(山椒魚)は、両性網有尾目に属し、狭義にはイモリ上科とサイレン上科を除くサンショウウオ上科(Cryptobranchoidea)に属する種、広義にはこれに加えてイモリ上科のプレソドン科、トラフサンショウウオ科なども含む種とする場合、さらには有尾目全体をサンショウウオと総称する場合もあります。その上サンショウウオと称する種のうちほぼ90%がイモリ上科に属しているというややこしさで、イモリやサイレンなどの近縁の両生類との区分は、世界の動物相的に見るとあいまいです。

しかし日本列島の在来種の場合、イモリ上科に属するのは奄美沖縄諸島に局所分布するシリケンイモリ・イボイモリを除けばアカハライモリ(ニホンイモリ)一種のみで、それ以外の有尾目の両生類は、すべて狭義のサンショウウオということになります。
そして狭義のサンショウウオとなるサンショウウオ上科に限ってみると、世界のサンショウウオ科(Hynobiidae)とオオサンショウウオ科(Cryptobranchidae)のうち、サンショウウオ科の90種のうちの47種、オオサンショウウオ科の3種のうち1種が日本列島に自然分布し、しかもキタサンショウウオを除く47種が日本固有種。日本はサンショウウオ上科の世界的に例を見ない特殊な動物相を持ち、動物学者の千石正一(1949~2012)氏は、「日本本土の動物界の至宝を選べ、というのなら、私ならグループとしてのサンショウウオを推す。」と述べています。氏の生前の時代から、今なお日本のサンショウウオは毎年のように新種が発見されており、未だにその「至宝」の全容は解明されていないと言えるでしょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

ヒガシヒダサンショウウオの卵塊。バナナ状のゼラチン室に保護されて水中で輝きます

サンショウウオとイモリは、見た目も非常によく似ていて、また前述したとおり世界的にはその区分もあいまいです。
日本のアカハライモリと、関東地方と福島県に分布する止水に生息する代表的サンショウウオの一種トウキョウサンショウウオを比べてみますと、まず皮膚の質感がイモリの場合はざらざらしているのに対して、サンショウウオは水ようかんのようにつるっとしています。
また、イモリもサンショウウオも幼生の時代はおたまじゃくしに似てエラ呼吸をし、水中で暮らしますが、イモリの成体は変態後に一時的に陸生になったのちにふたたび水生にもどるのに対し、サンショウウオの成体は水辺近くの湿った環境の陸地です。ただし後述するようにオオサンショウウオは一生を水中ですごしますし、また、陸生でありながら山間渓流生息型のハコネサンショウウオ属には肺がなく、呼吸は全て皮膚呼吸に賄っています。繁殖行動も異なり、イモリはメスの体内で受精する体内受精で体外受精です。

けれども何よりサンショウウオ科の特徴をあげるならば、彼らが変温動物には珍しく、寒冷適応した両生類だ、ということでしょう。
言うまでもなく、ヘビやトカゲやカメなどの爬虫類、カエルやイモリなどの両生類は暖かくなると活動期に入り、冬を迎えて気温が下がってくると土や泥水の中などに籠って仮死状態となり冬眠します。そしてそれらの動物の生息域の密度は当然熱帯や亜熱帯、暖温帯に偏ります。
ところが、サンショウウオの多くは、冬眠しません。零下になる環境でも、餌が少なくなり活動が鈍ってじっとしているとはいえ、仮死状態にはならないのです。彼らは、現在の東アジアの亜寒帯・冷温帯の冷湿な環境に適応した両生類で、氷河期時代には、そのような環境が今よりずっと南にまで広がっており、その時代に繫栄した種の末裔たちなのです。

日本列島は、氷河期は落葉広葉樹の森が広がり、北方・高地の春の草花・木花が咲きそろい、その花を求める昆虫が繫栄し、それを捉える小動物、そしてそれを食べる大型哺乳類が行き交う環境でした。スプリング・エフェメラルと呼ばれる早春の低山・里山の花々やギフチョウなどの原始アゲハ蝶、そしてクマは、当時の日本列島全域の自然の生態系を支えた末裔たちです。
サンショウウオもまた、この複雑に山襞が拠り合う中に豊かに降り注ぐ雨がもたらす湿潤で多様な環境の中で、世界にも類を見ない豊かな進化・分化を遂げて生き継ぎ、そして温暖化の後には、その環境を生かして里山を形成してきた人間の営みが作り上げた二次的自然環境の中で寄り添いながら生きてきた貴重なこの国の宝なのです。
 
 

パタゴニア

 

 
 

山椒の匂いがするってほんと?「山椒魚」の語源