実際には、100年の時を経て今なお私たちを触発し続けるスタイルであり、生活を彩るデザインであり、品々なのです。民藝という言葉を生み出し、新しい美の概念を考案した柳宗悦。その背景には、「押し付けられた美」に対する「怒り」がありました。
『白樺』「ロダン」「李朝の壺」。民藝の誕生
1914年、ロダンのブロンズ像を見るために、彫刻家を志す浅川伯教(のりたか)が千葉県・我孫子の柳邸を訪れました。現在の韓国・ソウルに住んでいた浅川は、小さな朝鮮の壺(李朝染付草花文瓢型瓶)を土産として持参します。柳は簡素な磁器に湛えられた美しさに引き込まれ、この出会いをきっかけに特に焼きものなどの工藝品に傾倒していきます。小さな壺の美に民族の固有性と独立性を認めた柳は、李朝の陶磁器の蒐集をはじめとして、沖縄やアイヌ、イギリスのウィンザーチェアや実用的な陶器・スリップウェアなどにも民衆の美を発見していくことになるのです。
「民藝」という言葉が生まれたのは今から約100年前、1925年の真冬から翌年の正月にかけてのこと。柳宗悦が、陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎と共に、旅先の和歌山で考えたといわれています。濱田は、1920年に柳の友人だった陶芸家バーナード・リーチとともにイギリスに渡り、帰国後に沖縄などでの滞在を経て、益子で本格的に陶芸をはじめました。河井は、京都市陶磁器試験場勤務時代の濱田の先輩にあたり、1924年に帰国した濱田によってイギリスのスリップウェアを知ります。さらに、濱田を通じて柳を知り、その考えに深く共感した陶器作りを行っていくようになりました。
美のルールを変えよう!民藝は「抵抗」する
柳宗理「バタフライスツール」
大正から昭和にかけての近代化に伴い、社会が一元化して地域固有の美が失われつつある時代。「民藝」には、帝国に対する「民衆」、美術に対する「工藝」という意味が込められていました。柳が意図する「民衆」とは、「庶民・大衆」を指す言葉ではありません。地域の風土に従い合理的に生活・仕事をする人々、「友人」であり「民族」といえます。
柳たちが始めた「民藝運動」は、権威が決めた美の均一化に抗い、「美術」が作ってきた「美」のルールを変え、新たなルールを作り、「美」の評価基準を決める力を「官」から「民」へ取り戻そうとするもの。民藝は「美術が作ったルールを変える存在」なのです。ここに、カウンターカルチャー(抵抗文化)としての民藝の姿が浮かび上がってきます。
現在に受け継がれる、3つのメディア展開
暮らしを豊かにするデザインや伝統的な手仕事は、ますます魅力を増して、私たちの生活に根ざしています。民藝が目指した「新しい美の基準」は、100年の時を経て受け継がれていることに気付かされますね。
柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」では、総点数450点を超える作品・資料を通して民藝100年の歴史を振り返ります。開催は2022年2月13日(日)まで。ぜひ、柳宗悦が見出した「美」の軌跡を体験してみてはいかがでしょうか。
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