集中豪雨を引き起こす線状降水帯の形成要因のひとつである「バックビルディング」。令和2年7月豪雨、平成29年7月九州北部豪雨、平成26年8月豪雨など、過去に大きな被害をもたらした大雨の原因であったことがわかっています。近年、増加傾向にある集中豪雨に備えるため、気象庁では、より早く、正確に豪雨の予測ができるよう、バックビルディング型をはじめとした線状降水帯のメカニズムの解明や観測・予測技術の向上を進めています。
バックビルディングとは
線状降水帯は形成要因や構造によっていくつかに分類され、このバックビルディング型の他に、スコールライン型、バックアンドサイドビルディング型といわれるタイプもあります。ですが、近年日本で大きな豪雨災害をもたらした線状降水帯の事例の多くがバックビルディング型に該当しており、線状降水帯の代表的な形成要因となっています。
<近年発生したバックビルディング型線状降水帯による豪雨災害の代表例>
・平成23年7月新潟・福島豪雨
・平成24年7月九州北部豪雨
・平成25年8月秋田・岩手豪雨
・平成26年8月豪雨(広島豪雨災害)
・平成27年関東・東北豪雨(鬼怒川水害)
・平成29年7月九州北部豪雨
・平成30年7月豪雨(西日本豪雨)
・令和2年7月豪雨(熊本豪雨)
バックビルディングの仕組み
バックビルディング型形成の概略図
下層の暖かく湿った空気が大量に流入し、その空気が地形や局地的な前線などの影響によって、持ち上げられて雨雲が発生します。大気の状態が不安定な中で、雨雲は積乱雲にまで発達し、さらに次々と積乱雲が発生します。上空の風がこの積乱雲を押し流すことにより、発生した積乱雲が列になります。
1つの積乱雲の寿命は30分から1時間ほどですが、バックビルディング型形成では同じような場所で世代交代を繰り返すことで、複数の積乱雲が連なった「積乱雲群」としてより長い寿命を持つことになります。その結果、長時間強い雨が降り続き、局地的な集中豪雨をもたらします。
線状降水帯の発生条件として、下層で暖かく湿った空気が大量に流れ込みやすい状態であること、前線や地形、冷気塊など強制的に空気を持ち上げる環境があること、上空(高さ3km付近)の湿度が高いことなどが挙げられます。
またバックビルディング型の場合、下層風と上空(高さ3km付近)の風向がほぼ同じで、かつ上空に向かって風が強くなっていると起こりやすいことがわかっています。ただし、風速の差が大きすぎるよりも、適度な差がある環境下の方が線状降水帯を形成しやすくなります。
これは、積乱雲が上空の風に流される性質があるため、強すぎると積乱雲同士が離れて組織化しにくいためです。こうした複数の条件が複雑に関わっていることが、線状降水帯の予測が難しい理由の一つになっています。
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バックビルディング型線状降水帯の事例
数時間にわたって雨雲が南西から北東にかけて線状に延びている、または停滞しているように見えます。実際にはこの降水域の中で、積乱雲が広島県と山口県の境界付近で発生して風下側の北東に移動する、という状態が連続して起こっており、それらが連なることで、100kmを超える長さの線状降水帯を形成していました。土砂災害が発生した広島市安佐北区や安佐南区では、次々と積乱雲が通過して、2時間で200mmを超える雨が観測されました。
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ここ10年の間に「バックビルディング」や「線状降水帯」が広まった背景
年間の集中豪雨発生頻度の変化(1976〜2020年の45年間)
このとき、気象庁気象研究所が「線状降水帯」とともに報道発表で初めて「バックビルディング」を使用しました。2017年に線状降水帯が新語・流行語大賞にノミネートされたことは記憶に新しいですが、バックビルディングはそれよりも早い2014年に同大賞にノミネートされています。
聞き慣れない言葉であったことや、積乱雲が同じ場所で次々と発生するというインパクトもあり、はじめは「バックビルディング」の方にメディアの注目が集まったようです。その後、現象を表すバックビルディングよりも、次第に集中豪雨のイメージに直結しやすい「線状降水帯」の方がメインの報道に変わってきています。
また、大雨に関連する言葉が数年の間に2回もノミネートされたことは、近年、集中豪雨が増えていることを示唆しているともいえます。事実、年間の集中豪雨発生回数は45年間(1976〜2020年)で2倍以上に増えていることが、気象庁気象研究所の解析によって明らかになっています。
増加傾向にある集中豪雨に備えて
そのためには、バックビルディング型をはじめとした線状降水帯のメカニズムをさらに詳しく解明する必要があります。例えば、水蒸気や風・大気の不安定度が3次元的にどのように分布しているか、発生・停滞・維持・解消それぞれのタイミングでどのような条件が寄与しているのかといった情報がまだ十分にはわかっていないため、さまざまな手法を用いて解析を進めています。さらに、より正確かつ詳細な観測データの入手、予測モデルの改良と強化などにも取り組んでいます。
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